3月12日 気になるニュース ギャバード 米国家情報長官が訪日へ 【解説】

 アメリカのトゥルシー・ギャバード国家情報長官が近く日本を訪問することをSNS上で発表した。
ギャバード氏は「離陸するところだ」として搭乗する際の写真とともに「日本、タイ、インドを訪問する。最初はホノルル」と投稿。インド太平洋軍を訪問し司令官に会うとしている。

【解説】
1. ギャバード長官は日本の防衛力強化に反対
2. 中国への警戒感の低さを議会が指摘。過去にトランプ氏の対中強行姿勢を批判
3. CIAの中国情報網は壊滅状態


 異色の人物

 このトゥルシー・ギャバード氏。議論を呼ぶトランプ政権の高官の顔ぶれの中でもかなり異色の存在だ。元々は民主党の連邦下院議員でトランプ政権の政策を批判しており、2020年の大統領選挙の予備選挙にも出馬している。その後、2022 年に民主党を離党しバイデン政権を厳しく批判。ウクライナ支援に反対し、トランプ氏の刑事訴追を批判、ディープステート批判などトランプ氏と重なる主張を展開しトランプ氏支持へと転向した。

 日本に対する偏見

 気になるのは日本に対するかなり偏った見方だ。日本の防衛力強化に反対する姿勢を示してきた。

 2023年12月、真珠湾攻撃の日に「日本の侵略を思い出すとき、我々は自問する必要がある。現在進めている日本の再軍備化は本当に良いのか」とSNSに投稿。日本の防衛力に対する強い警戒感を表明しているのだ。

 この点は広く知られており、国家情報長官指名を受けた議会上院の公聴会でも議員から質す声が上がっている。ギャバード氏は「日本はアメリカの強力な同盟国だ」と述べて一見釈明したように見える。

 しかしそれに続いて「日本と中国との歴史的背景を考えると、日本が自衛的な姿勢からより攻撃的な姿勢へと移行することが、どのようなエスカレーションをもたらすか」と日本の防衛力整備は中国との軍事衝突になりかねないと、あらためて懸念を指摘している。

 日本はアメリカの脅威?

 さらに「歴史的経緯から考えてもアメリカにどのような安全保障上の影響が及ぶかを認識する必要がある」とまで述べている。

 日本とはかつて戦争したのだからアメリカの脅威にならないか考えるべきだ、ということだ。

 トランプ政権は中国の台湾侵攻を最大の脅威と位置付けている。そして抑止力を高めることで、戦争をせずに侵攻を思いとどまらせる、というのが基本にして最優先の戦略だ。その抑止力強化はアメリカだけでは不十分で、台湾と日本の役割が重要だと考えている。その政権の基本戦略にギャバード氏は完全に逆行している。

 中国への警戒の薄さ

 さらに中国に対する警戒感が低いことも目立っている。第1期トランプ政権時にもトランプ氏の対中強行姿勢を批判していた。そして1月の議会公聴会でも議員からこの点が問題視された。今や中国への強い警戒感は与野党問わず議会のコンセンサスだ。

 特に1月19日に施行されたTikTok禁止法に対してギャバード氏が反対していることを問い質した。
  (TikTokの運営禁止はトランプ大統領の大統領令によって75日間延期されている。)

 ギャバード氏はこれまでに「TikTokの国内所有を義務付けることは自由の侵害にあたる」とか「このアプリに対する国家安全保障上の懸念は根拠のないもの」などと発言している。

 ギャバード氏は「私が表明したことの中心にあったのはアメリカ国民の修正第一条の権利の保護でした」と述べて「表現の自由」を害することへの懸念からだったと説明した。また中国について冒頭で「両国の経済は密接に結びついている」とも述べている。

 日本の防衛力強化についての見解も併せると、ギャバード氏は中国に対する警戒感が政権の他のメンバーや議会と比べて低いことは明らかだ。そして「両国経済は密接に結びついている」という発言はオバマ政権時に中国に厳しく対処しない理由としてアメリカ政府当局者が繰り返した発言と一緒だ。

 CIAの中国内のスパイ網は崩壊

 タイミングも悪い。
 CIAは10年ほど前に中国当局の防諜活動によってスパイ網が一網打尽にされたと言われている。

 実際、現在でも中国指導部内の動きについて十分な情報が取れていない。逆に中国の諜報活動は非常に活発で、アメリカは体勢の立て直しが急務となっている。その中で中国の諜報活動への危機意識が薄い人物が国家情報長官に就任したことになる。1月20日の大統領就任式でギャバード氏の隣にいたのはTikTokのCEOだった。

 共和党は「トランプ党」に

 そういう人物をいま国家情報長官に任命するという辺りがトランプ政権の雑なところだ。

 そしてさらに重要なのはその人事を議会共和党が通してしまうことだ。議会はギャバード氏の問題を十分認識している。その上で、ここまで政権や議会の方針と合わない人物を国家情報長官として認めてしまうのだ。つまりいま議会共和党はトランプ大統領の方針には何も逆らえないということだ。

 「トランプ党」になってしまった共和党。アメリカ議会の機能停止は政権の暴走を生む大きなリスクをはらんでいる。